「良いものにはお金がかかる」の心理的罠
「良いものにはお金がかかる」。世の中の多くのことに当てはまる原則です。
その高価さには、たいていの場合裏付けがあります。エルメスのカバンは当たり前のように100万円を超える値付けがされていますが、それには「最高級の皮を使い」「最高の製法を以って」「最高の職人が1から100まで全てをハンドメイドする」という裏付けがあります。
ですから「良いものにはお金がかかる」という考え方には一定の理があります。
ただし、私たちはそれを逆にとらえてしまうことが往々にしてあります。すなわち、「お金がかかっているのだから、良いものに違いない」と。論理的には間違っていますが、感覚的にはうなづけてしまいます。
特に「購入しようとしている商品の善し悪しを判断出来ない」場合に、価格の高低は非常に有益な情報源になります。「迷ったら高い方を頼んでおく」ことで、大体間違いのない選択をすることが出来る。スマホで迷ったらiPhone、革靴で迷ったらCole haan、車で迷ったらBMW……「高い」ことは有効な基準となります。
問題は、当然ですが、世の中の全てのものに「高いもの=良いもの」理論が当てはまらないということ。逆に、その固定観念に騙され、時に損をする選択をしてしまうことすらあります。そして、それは投資信託の世界においても同様なのです。
投資信託のコストとパフォーマンスとの関係
2020年10月9日のモーニングスターのコラムでは、国内株式型のアクティブファンドの263本について、そのコスト(信託報酬等)とパフォーマンスとの関係を調べています。
コスト別に分類すると、以下のようになります。平均のコストは1.56%。1.50~1.75%がボリュームゾーンとなっており、手数料が1%未満の商品は10本でした。コストが最も低いのは0.76%、最も高いもので2.16%です。
1%のコストの差はバカにならない
さて、投資の世界において、1%の差は本当にバカになりません。長期で見ると、そのコストの差は大きくパフォーマンスに影響します。
※1%のコストの差は、長期的にはパフォーマンスに大きな影響を与えます。
では、コストが高いファンドは、そのコスト差に見合ったパフォーマンスを出し、投資家に報いてくれるのか。直感的には「それだけ高いコストを払っているのだから、銘柄調査をくまなく行っているのだろう、ならより高いパフォーマンスが出るはずだ…」と考えたい所です。
コスト率別に、運用成績を比較したのが、下の表です。
上記の比較では、運用成績について「モーニングスターレーティング」を採用ししており、1.0以上2.0未満、2.0以上3.0未満、3.0以上4.0未満、4.0以上の4段階での集計となっています。レーティングの数値が高い程、運用成績が良かったということを示しています。
結果は一目瞭然です。「コストの安いファンド程、運用成績が良い」のです。
レーティングが最も高い4.0以上のファンドの割合は、コストが1.00%未満に属するファンドでは50.0%と最も高い一方、1.75%~2.00%未満のファンドでは15.5%と最も低くなっています。逆に、最もレーティングの低い1.0以上のファンドは、コスト1.00%未満のファンドで最も少なく、やはり1.75%~2.00%未満のファンドで17.2%と最も多くなっています。
「手数料をかけた分だけパフォーマンスも高くなるだろう」という直感とは異なる結果です。
コストの差を加味すると、更に差は開く
上の図を見ると、コスト2.00%以上のファンドも悪くない成績を上げていることが分かります。しかし、そこに投資する意味はありません。
なぜなら、コストを加味すると更にパフォーマンスの差は開いてしまうからです。コスト2.0%以上のファンドに投資すると、コストが1.0%未満のファンドと比較して、年間1.0%以上のコストの差が生まれます。
パフォーマンスに大きく差が無いのですから、この差は致命的。年間1%のハンディキャップを背負っているのですから、長い目で見れば、単純な運用成績以上の差が生じます。
この現実を無視し、「高いお金を払っていれば、より良いパフォーマンスを与えてくれるはずだ」という祈りにも似た信念を維持する場合にのみ、この選択は正当化されます。
そのような強い信念を持てない常人は、迷ったらコストが安いファンドに投資しておくことが最良の選択となるでしょう。