「今後10年は生き残るであろう10銘柄」
「今は新時代であり、時代に合ったヒーローたちが存在している。……「通信ネットワークの電光石火的な変化」「エンターテインメントの新世界」「金融サービスの「団塊の世代化」「バイオテクノロジーの時代の到来」、これら4つのトレンドは、どれか1つだけでも爆発的な効果を発揮する。これらが組み合わさることで、私たちの仕事や交流のあり方が大きく変わることは間違いない」
2020年に書かれた文章と言っても違和感はありません。
ですが、実はこれは2000年に米フォーチュン誌に掲載された記事なのです。
タイトルは「10 Stocks To Last The Decade(今後10年は生き残るであろう10銘柄)」。
※出所:https://archive.fortune.com/magazines/fortune/fortune_archive/2000/08/14/285599/index.htm
タイトルの通り、今後10年間投資すべき10つの銘柄を紹介しています。
「銘柄を見つけるために、ジャナス・ファンドのマネージャーであるブレイン・ロリンズ、フランクリン・バイオテクノロジー・ディスカバリー・ファンドのマネージャーであるカート・フォン・エムスター、サンアメリカのポートフォリオ・マネージャーであるフランク・ギャノン、ソロモン・スミス・バーニーのストラテジストであるマーシャル・エイカフなど、米国内でもトップレベルの投資家たちに協力を求めました。また、私たちは、財務諸表に目を通し、企業に話を聞き、製品を試してみるなど、価値・リスクを独自に調査しました」
その選定方法には、非常に強い説得力があります。
「これらの10銘柄は、あなたの退職金口座を良い状態に保ち「買い損ねた銘柄」という悪夢からあなたを守ってくれるはずです」
との自信満々の言にも真実味があります。
では、その10銘柄とはどの銘柄なのか、そしてそのパフォーマンスはいかなるものだったのかを、gufufocusの記事から見ていきましょう。
※出所:https://www.gurufocus.com/news/523718/10-stocks-to-last-the-decade
10銘柄とそのパフォーマンス
Nokia(NOK)
ノキアは、1990年代後半に名を馳せた無線メーカーです。
携帯電話業界では、非常に高いシェア率を誇っていました。
しかし、通信技術発展の波に完全に乗り遅れ、アップルをはじめとする携帯電話他社の台頭によりどんどんシェアを喪失。
2013年にはマイクロソフトに買収され、業績回復の期待も多少見られましたが、結局低迷は止まらず。
2000年につけた高値から、2021年現在、株価は90%以上下落しています。
Nortel Networks
ノーテルネットワークスは、電気通信装置の製造を行う企業です。
2000年には世界の頂点に立っていたノーテルは、ピーク時の時価総額は2500億ドルを超えていました。
しかし、そこから業績は下り坂。2009年には破産法を申請しました。
Enron
エンロンは、エネルギー取引とITビジネスを行っていた企業です。
が、不正経理・不正取引が明るみに出たことで、まさかの2001年12月に破綻しました。
ちなみに、10銘柄に選ばれたのは2000年8月でした。
Oracle(ORCL)
オラクルは、ソフトウェア会社で、ここまでの3社に比べると良好と言えるでしょう。
2000年につけた高値は約42ドル。
その後、2010年までの間、75%以上価値が下落した状態が続いていました。
しかし、2021年現在、70ドル前後を推移しています。
20年間持ち続けていれば、それなりのリターンが得られるという意味では悪くないかもしれません。
Broadcom
ブロードコムは、2000年にフォーチュン誌の記事が書かれた時、1株当たり160ドル程度で取引されていました。
結局、ブロードコムは、2016年にAvago Technologiesに買収されました。
これにより、投資家は、50%以上の損失を被ったことになったとのことです。
Viacom
バイアコムは、映画やケーブルテレビを主事業とする、メディア・コングロマリット。
バイアコムは、元々親会社であったCBSから分離した会社でしたが、現在は元々の親会社であったCBSに統合されています。2000年8月時点では、1株あたり69ドルの価値がありましたが、現在のViacomCBS(統合後の名称)の株価は現在45ドル程度。
アルケゴス関連の取引で株価を大幅に下げての価格であり、暴落前は100ドル近くの根がついていたことを踏まえると、それ程損は無かった銘柄とは言えます。
Univision
ユニビジョンは、米国を拠点とするスペイン語テレビ制作会社。
2007年初めに137億ドル(約100億ドルの負債を含む)で買収された企業。
2001年当時のユニビジョンの時価総額は約60億ドルであったとされています。
ユニビジョンへの投資が成功か否かを判断するのは難しいですが、良い投資であったとは決して言えないでしょう。
Charles Schwab
チャールズ・シュワブは、証券会社。
2000年8月には1株あたり36ドルで取引されていた同社の株ですが、2021年現在は60ドル以上の価格をつけています。
現在の価値だけを見ると、悪くない投資のように見えますが、2000年の高値をつけてから、同水準に回復したのは2017年のこと。投資家は、2017年の雌伏の期間を乗り越えなければならなかったことになります。
これも、決して良い投資であったとは言えません。
Morgan Stanley(MS)
モルガンスタンレーは、世界的な金融機関ですが、2001年につけた高値を、2021年の今でさえも上回ることが出来ていません。
Genentech
最後は、バイオテクノロジー企業のジェネンテック。
ジェネンテックは、2009年にRoche(ロシュ)に買収されました。
買収時に株主に支払われた額は、1株当たり95ドル。
これは、フォーチュン誌で紹介された1株38ドルという金額よりも、かなり高い金額です。
ジェネンテックへの投資は成功したと言えるでしょう。
ここまでで上がった10銘柄のパフォーマンスを最後に振り返ってみます。
1 | Nokia | × | 株価が回復せず。 |
2 | Nortel Networks | × | 破産法申請。 |
3 | Enron | × | 経営破綻。 |
4 | Oracle | △ | トータルリターンはプラス。ただし、下落から回復するのに20年を要した。 |
5 | Broadcom | × | 買収により、投資家の損失が発生。 |
6 | Viacom | △ | 合併後のViacomCBSの株価は上昇中。ただし、下落からの回復には20年を要した。 |
7 | Univision | △ | 2007年に買収され、合併。 |
8 | Charles Schwab | △ | トータルリターンはプラス。ただし、下落から回復するのに20年を要した。 |
9 | Morgan Stanley | × | 2001年の高値を2021年の現在でさえ上回れず。 |
10 | Genentech | 〇 | 買収されるも、2000年当時の株価の2.5倍近い価格が買収時に支払われた。 |
上記を見れば分かる通り、間違いなかったと自信を持って言えるのは「Genentech」のみ。
その他は、見栄えの良くない成績を残しているか、この世から消えてしまっている物も。
「10年生き残る銘柄」ですら無かったものも存在しているのは、驚きです。
S&P500 vs 10銘柄(ただし残っているもの): チャートで比較
パフォーマンスで比較してみましょう。
上記は、S&P500指数と、10銘柄の内現在もなお上場している(合併してしまったものは除く)4銘柄(オラクル:ORCL、チャールズ・シュワブ:SCHW、モルガンスタンレー:MS、ノキア:NOK)の、2000年8月から現在までのチャートの比較です。
オラクルとチャールズ・シュワブ、モルガン・スタンレーが何とか当時の水準にまで戻してきている一方、ノキアは2000年の株価よりも90%下落したままのレベルに留まっています。
S&P500指数が、当時の3倍弱にまで成長していることと比較すると、素晴らしいパフォーマンスであるとは言いづらいでしょう。
しかも、実際には10銘柄の中には破綻してしまった企業や合併してしまった企業も含まれているのですから、トータルで見てのパフォーマンスは推して測るべきでしょう。
「10年残る10銘柄」が教える3つの教訓
では、この「10年残る10銘柄」が現代に生きる私たちに教えてくれることは何でしょうか。
3つの教訓という形でまとめておきましょう。
・未来は誰にも読めない
1つ目は、「未来は誰にも読めない」ということ。
フォーチュン誌に載ったこの記事は、第一線のファンドマネージャーが選択し、様々な観点から分析しつくした銘柄ばかりでした。
そんな銘柄ですら、結果を残せるとは限らない。
一般投資家にとっては、なおさら。ゆめゆめ、未来が分かるような気にならないことです。
・銘柄を絞りすぎることにはリスク
二つ目は、銘柄を絞りすぎることにはリスクが伴うということ。
今回「10年残る」と選ばれた10銘柄の内、2銘柄は破綻し消滅。
4銘柄は買収によって元の会社の形は失われ、結局残ったのは6つの銘柄だけでした。
人の寿命が誰にも予測できないのと同じように、企業の寿命も誰にも予測できません。
常に分散を怠らないことの重要性を、この10銘柄は教えてくれます。
・「良い銘柄だ」と思えた時こそ、慎重に
そして3つ目は、「良い銘柄だと思えた時こそ慎重である必要がある」ということ。
この10銘柄は、結果こそ惨憺たるものでしたが、2000年当時は時代の最先端を走り、これからの未来を「生み出し得る」可能性を秘めていました。
だからこそ、10銘柄にも選ばれる訳です。
しかし、そんな銘柄ですら、その10年後の姿は分からない。
世界トップシェアを誇っていたNokiaが、今やApple、Samsung、Huaweiに市場を強奪され、見る影もなくなってしまったように。そしてそれは、今日のApple、Google、Facebook、Amazonといった時代の最先端を走る企業にも、全く同じことが言えるのです。
その企業の将来がまぶしく光り輝いている時にこそ、私たちは慎重であらねばならないのです。
将来は誰にも分からない。自らの能力を過信することなく、適切なリスクを健全な投資生活を送りましょう。