一度は悩む「従業員持株会」
給料から、毎月決まった額を天引きし、勤める会社の株(自社株)購入する「従業員持株会」制度。
東京証券取引所の調べによれば、2019年3月末時点で以下のような状況とのこと。
※ https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/04.html
- 87.6%の企業が導入
- 96.6%の企業で奨励金を付与
- 8.51%が、奨励金の平均割合
大多数の企業に導入されており、ほとんどの場合に奨励金が付与されている状況です。
そのため「入るべきか、入らざるべきか」と悩む方も多いかもしれません。
しかし、その答えはNOです。理由は以下の3つです。
- リスクが分散されない
- 自社株は価値が正しく見極められない
- 柔軟に運用できない
3つの理由を解説していきましょう。
理由① リスクが分散されない
最も大きな理由はこれです。
サラリーマンにとって、会社からの給与が収入のほとんどを占めています。
コロナ禍におけるANAの困難な状況を思い出すまでもなく、会社の業績と自分の生活とは、ほとんど一蓮托生。
これだけで、会社のパフォーマンスによるリスクを相当大きく背負っている状態です。
「自社株を購入する」というのは、会社のパフォーマンスによるリスクを更に背負い込む行為。
キャッシュフローに加えて、自分の資産までも、会社のパフォーマンス次第となってしまいます。
これは、「全ての卵を一つのカゴに盛るな」という格言が教える「分散」とは全く逆の行為。
明らかに過度なリスクの集中で、可能であるなら絶対に避けるべき行為です。
理由② 自社株は価値が正しく見極められない
「自分の会社はこれからどんどん成長していくから、投資として自社株を買っているんだ」という方もいるでしょう。
「成長する企業に投資をする」のも、分散と同じく投資の大原則。
四季報オンラインでは、
- 1990年にキーエンスに入社
- その後28年間、毎月1万円をキーエンス株に積立投資
- 合計拠出額は336万円
というケースで、最終的な資産評価額がいくらになるかを試算しています。
336万円が3680万円になるというのは魅力的です。
ただし、正にこれこそ「捕らぬ狸の皮算用」。結果論に過ぎません。
日経ビジネスによれば、ベンチャー企業の5年後生存率は15.0%。
10年後は6.3%で、20年後は0.3%にまで下がります。
※ 出所:https://business.nikkei.com/atcl/report/15/280921/022200058/
今年設立された企業が1000社あるとすれば、20年後に残っている企業はわずか3社。それ位、会社が存続していくというのは難しいこと。更にその中で高いパフォーマンスを出す企業となると、更に限られます。
自分の会社がキーエンスのような高いパフォーマンスを出せる会社だと分かれば良いのですが、そうは行きません。
それは、「自分の会社はひいき目に見てしまうため」です。
自分の会社は生活に根差した身近な存在。であるがゆえに、無根拠な安心感を持って、楽観的になってしまいがちなのです。
冷静に自社のパフォーマンスを推し量ることが難しいために、不相応に大きなリスクを取ってしまう可能性があります。
理由③ 柔軟に運用できない
リスクが過度に集中する上に、そのリスクを正しく見極められない。
これだけでも持株会にNOを突き付けるのには十分ですが、更に持株会には「柔軟に運用できない」という欠点もあります。
例えば、自社株が上がり、売却を考えたとしましょう。
自社株の売却ですから、「インサイダー取引」にあたらないかを確認する必要があります。その確認をするためには、所属部門長やコンプライアンス部門を絡ませることになります。自分の資産が覗き見られているようで、それだけでも心地よくはありません。
結果として、自社株を売却する際の手間が大きいことで、売却のタイミングを逃してしまい、ずるずると持ち続ける羽目となりやすいのです。
結論:持株会はやめておこう
持株会は魅力的に感じやすい制度です。奨励金が出るとなればなおさらその思いは強くなってもおかしくありません。
しかし「一社にリスクを集中させる」上に「そのリスクを客観的に見極められない」、かつ「柔軟に運用できない」という特徴を持つ自社株は、よほどの理由が無い限りは一般投資家が投資すべき対象では無いと言えるでしょう。